皮膚が骨を動かす

今回のテーマは、皮膚と骨の関係性。
顔の皮膚を施術対象とする正顔法の視点から、頭蓋骨をどのように捉えているかを説明します。正顔法では、顔の構成要素を、大きく3つに分けています。
皮膚、下部組織(筋肉、脂肪等)、骨。この3つの層が重なって、顔の形状が維持されている。そして、それぞれが自由に動く。 動きながらも、3つの層が負荷なく重なる位置がそれぞれの定位置であり、その状態での立体形状が本来の顔の形です。
この3つの層が互いの動きを制御し、固定化されてしまうと顔の変形として現れます。3つの層を静止させてしまう緊張や癒着を、皮膚から緩和させ、定位置に誘導するのが正顔法です。

なら、皮膚が骨を動かせるのか? という疑問がでてきます。 実際に行っている施術からの実体験を交え、説明してみます。
では、頭蓋骨の簡単な説明から。


頭蓋骨は28個の骨が縫合して構成されています。複数の骨が組み合わさってできているのです。
骨のつなぎ目は、縫合線と呼ばれています。出生直後は、軟組織で構成され、幅も広く可動性があります。 出産時に頭蓋骨を変形させ、産道の通過を助けたり、脳の発育に合わせ頭部が大きくなるようにできています。

この縫合線は、20代までは軟組織で頭蓋全体の成長の役割をはたし、中年期以降は線維化して骨に置き換わっていきます。この性質を利用して、法医学や人類学では、年齢を推定するのに縫合線の骨化を利用しています。
分かりやすく言えば、縫合線は湾曲したひび割れのようなもの。この「ひび」が、顔の変形を起こす物理的要因のひとつです。

実際の施術を通して、その理由を説明します。
施術では、皮膚の可動性が悪い部分を指で追いかけながらひとつひとつほぐしていきます。顔の状態によって、皮膚の動きが鈍い箇所は異なりますが、往々にして皮膚、下部組織、骨の三層の厚みが薄い部分がそれにあたります。
それが鼻筋、額、こめかみなど。 皮膚が下層に引っかかって、動きが妨げられている部分を外していると、平面だった皮膚に幾つかの隆起したコブ状の盛り上がりがでてきます。 このコブ状の隆起が、三層の動きを妨げている繊維のもつれ。 これが、縫合線上に多く見られます。縫合線の僅かな溝に、繊維状の組織が入り込み詰まって隆起している。すると、微弱に動く関節的な役割をもつ縫合線の動きが妨げられ、その緊張が上層の筋組織に伝わり萎縮して動きが鈍ります。

皮膚表面では、皮膚が柔らかさを失い、深めのシワができています。
施術において、あるポイントの皮膚を浮かせ、皮膚と表情筋を固定させたまま上唇を動かすと、上顎がゆるみ、頭蓋骨を構成する幾つかの骨がそれぞれに動くのを感じることができます。
「動く」というのは、縫合線で上下左右に骨が動くのではなく、縫合線で強弱をつけ波打つように動くのです。縫合線は、中年期以降は線維化して骨に変わると言われていますが、私の観察では、80代でも頭蓋骨は動きます。むしろ、年齢ではなく個人差。 軟組織が残る30代でも、頭部がひとつの球体の塊のように動かない方もいます。

頭蓋骨は内部を包む容器です。
その内部には、動きがあります。脳脊髄液が流れ、脳圧があり、鼻腔とつながる副鼻腔と呼ばれるいくつかの空洞があり、そのひとつの上顎洞は、年齢を重ねる毎に空洞が広がります。
そのような内部の動きに対応するよう、容器自体の頭蓋骨も年齢に関係なく、柔軟に対応できるようになっているのではないでしょうか。縫合線の骨化も、歯の隙間にできる歯垢のようなもので、溝に溜まった線維の骨化は、多少は取り除ける対象のように思われます。

皮膚、下部組織(表情筋等)、骨の3つの層の動きは、それぞれ連動しています。
皮膚と表情筋に柔軟な動きが戻れば、骨も微弱に動き出す。負荷のない表情や、目、口の動きに連動して、縫合線で固まっていた頭蓋骨も徐々に本来の微細な動きを取り戻すと思われます。それぞれの連動した動きが戻れば、年齢と共に肥大してきた顔のサイズは、本来の小さくまとまったサイズとなり、自己調整し始めます。

特に顔の中心である鼻の周辺は、縫合線も複雑で変形しやすい部分です。

鼻は、密な縫合線だけでなく、動き続ける目や口に隣接し、その動きに影響を受けています。目と口は、輪の形状の表情筋です。その動きは放射線状に広がり、中間の鼻で合流します。そのベクトルを鼻が受け止め、逃がしています。揺れを吸収する耐震装置のような役割です。
その際、鼻が定位置にあり、柔らかさを維持していないと、顔で起こる目や口の動きを自由に遊ばせることができず、動きに違和感が生じます。動きの悪さは、そのまま形の変化として現れます。鼻の周囲に、歪み、窪み、出っ張り、硬化を起こし、それに連動して小鼻が下がり、目や頬を下げて顔全体の面積が広がっていきます。

まるで、動きの悪さをカバーするように、形状を変化させ対応しようとする身体自体の反応のように見えます。その反応が、顔の変形です。

縫合線に沿った頭蓋骨本来の動きをいかに取り戻すのか?以下に述べるのは、本質を捉えるために物事を単純化させてイメージに置き換えたものです。
身体の内部は、つねに動き続けています。細胞レベル、細胞の集合体の組織、体液、さらに神経、電気的信号と、あらゆるものが常に動き続け、生命を維持させています。 その複雑で無数の個々の動きを総体的に見ると、個体単独の動きは、すべてがひとつに連動する液体の動きとしてイメージすると本質に近づけると思うのです。
身体内部は、自由に動くまとまった液体。まとめているのが、外界に接する皮膚。 水風船にできた凹凸が顔の形状です。

内部の液体の流れは、それを包む膜の状態や形状に直結し影響されます。
縫合線に沿う頭蓋骨の波うちのような動きを戻そうと思うなら、液体を包む皮膚を戻す。皮膚の状態を戻しながら、頭蓋骨で大きく動く顎を呼び水のように動かすと、縫合線での動きが戻り始めます。身体内部に起こるひとつの停止は、他に異常な動きを強いて、組織の配置のズレをともない、そのまま形として現れてしまいます。

皮膚が骨を動かせるのか? コンマ数ミリの薄い皮膚と、それよりも物質的に強い組織や骨を比較すると、違和感が生じます。
内部を物として見るのではなく、その複雑な連動を一体の液体の動きとして捉え、それを包む膜=皮膚が形状を維持していると認識すれば、内側は外側からアプローチできるということです。

そのイメージをさらに具体化させると、顔や身体の形状の下垂の捉え方は、こうなります。
骨から皮膚が下がるのではなく、皮膚から骨が下がっている。 形状を維持する皮膚の位置から、内部の負荷による動きに伴って、筋肉や骨がずれてしまうということです。 皮膚が、骨や表情筋、内臓まで動かすことができるというのは、形状の輪郭である皮膚が、下層のすべての位置を戻すよう誘導しているということ。それを、「動かす」と言い表しています。

広がった顔が締まる。 目、鼻、口のパーツが寄り合うことで上がる。などの変化は、顔という物質の形状そのものを、粘土を細工するように戻しているわけではありません。 皮膚、筋肉、骨の3層の自然な動きを戻すことによって現れる形が原型の顔です。
個々の物質を動かして形が現れるのではなく、液体のような一体性のある動きそのものを意識して戻すと、形が現れるということです。

少し観念的な説明になって、申し訳ございません。
最後に、お客様の声をご紹介させて下さい。

「目が辛かったのは、頬の骨が動かなかったからですね」
下顎骨が下がったまま固定され、目の動きに影響を与えていた状態です。 目の動きが戻ることによって、頬の骨が動くことを実感されました。
また、噛み合わせの違いを実感される方もいらっしゃいます。これらの実感は、すべて皮膚からのアプローチです。
より多くの方に、皮膚の可能性とこの実感を体験して頂ければと思います。

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