顔の変形は認識されない?

顔は自身を表すビジュアルとして、誰もが強く意識しているはずです。 にもかかわらず、顔が変形することは一般的に認識されていません。

年齢と共に変化する顔。
この現象と原因を、「老化」という言葉でひとくくりにイメージ化させたため、顔に起こる変化を曖昧にさせているからです。
また、私たちが得ている「肌」に関しての情報は、「美容」からの視点です。その視点で提供される情報と知識は、顔という部位の一部分でしかありません。顔は、美容という側面から見るだけでは理解できない複雑で特異性のある部位です。シミやシワなど、皮膚表面に起こる状態にのみ取り組めば良いものではありません。単なる美容対象ではなく、身体や心と密接に関係する特異な部位が「顔」です。

皮膚科学、解剖学、心理学、発生学など他の分野で「顔」を見るとき、美容分野から得られる情報はほんの一部であり、それが社会に発信される情報のほとんどを占めているのが現状です。その情報が一般概念を形成するので、年齢に関係なく、強いストレス等で「顔は変形する」という認識は、なかなかイメージしにくいものだと思います。

お客様の若い時と今の顔写真を見比べると、共通して感じるのは、今の顔が不安、不満、苦しそうに見えます。これは、顔の変形が定着しようとする力と、元に戻りたいと頑張る力が反発し合っている状態であり、それが顔の形として現れています。

「顔面フィードバック」という心理学の仮説があります。
脳が「嬉しい」と判断すると、顔の筋肉に「笑顔」を作るよう指示します。そして、実際に作られた顔の筋肉の動きが脳にフィードバックされて、 はっきりと「幸せ」だと認識するそうです。
ですから、「私たちは、幸せだから、笑うのではない。笑うから幸せなのだ」(ウィリアム・ジェームズ)という哲学者の名言も、身体機能の本質を突いています。これに則せば、顔の変形は心理面に大きな影響を与えます。 顔の変形が定着すると、顔の微細な動きが損なわれ、感情とそれに伴う表情とのズレが生じます。 嬉しいのに、顔がうまく笑えていない。その自覚があるのです。
さほど疲れていないのに、鏡に映る顔は何だか疲れてそうな表情に見える。それが日々繰り返されると、嬉しいという実際の感情とは正反対の情報が顔の表情から脳に送られ、そう感じるように暗示をかけられてしまうのです。すると、なんだか気力がでてこなかったり、鬱っぽくなったり、と顔の変形が心理面に影響を及ぼすのです。

これは私の推測ですが、鬱や更年期障害も、皮膚の状態や変形と何らかの因果関係があるように思われます。また、「醜形症」という心の問題。他人から見ると、とてもきれいな人でも、「自分の顔が変だ」と悩み続ける人のことです。美意識が高い、気にしすぎ、と言われますが、それだけが原因でしょうか? 心理面だけでなく、本人も気づかない、何らかの物理的な要因も加わっているのではないでしょうか。
思い通りに動かない顔、不自然な笑顔に、見た目の感覚ではなく、その表情にある種の「痛み」や「張り付くような筋線維の窮屈さ」を感じているのではと、考えています。

このように、顔の変形や皮膚の状態が、思考や心理面にも大きく影響することは、私自身、多くのお客様の感想や表情が明るくなっていく様子からも見て取れます。 意欲の低下、注意力・判断力の低下やだるさ、睡眠障害といった身体症状にも、顔の変形や皮膚の状態が少なからず起因しているのではないかと思います。

顔は、化粧で飾るキャンパス。この認識に問題を感じます。 自分の思うように、操作しても何ら弊害はないという認識。 シミやシワを、何かをプラスすることで改善させる化粧品や形状そのものを変える美容整形。見た目の満足感のみを提供するその方向性に危うさを感じます。

私は完璧主義者ではありません。
「顔の怖さ」を身に染みて実感しているだけです。 私は交通事故により、顔の再建手術を経験しています。 それは、神経、血管、皮膚、軟骨の同時移植という、今でも画期的な手術の類に入るものです。
顔の組織や皮膚が変容した場合、心身にどのようなことが起こるのかを、数十年に渡って観察することができました。 その経験から、顔はバランスを崩すと、病名のつかない頭痛や倦怠感、むくみ、冷え、精神の落ち込みをまねく、「怖い部位」だという実感があります。 何も私のような極端なことがなくとも、一般的にも強いストレスなどで顔は変形し、バランスを崩します。

個々の身体的、精神的症状に対してアプローチすることはできません。ですが、美容という側面において、顔の変形を改善させることはできます。 顔が変形していく法則性や、改善させる方法論は私なりに確立させています。

顔は、誰でも手で触れることができる部位でありながら、その存在自体は、身体全体にとってのバランサー的な意味を持ち、デリケートに扱わなければならない部位であるという認識を多くの人に理解して頂ければと思います。

顔は変形する。 皮膚の状態は、心理面に影響する。 身体の機能に影響する。 ご自身の中で、この新たな認識をもてば、「年齢だから」とか、「私の性格が」とかで終わらせない「次」があると思っています。

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