皮膚と顔の変形

前回は、皮膚科学から見た皮膚。
皮膚の感覚器としての働きは無意識の領域に広がり、健康や思考、感情にまで影響を与えているということをお伝えしました。今回は体のフォルムや顔の形、それと皮膚がどう影響しているのかお伝えします。 年齢とともに顔の形も変化します。これを老化として私たちは捉えていますが、この現象に抗うヒントが皮膚にある。それがイメージできれば、と思います!

正顔法では、皮膚を骨格だと捉えています。

皆さんがイメージする骨格は、体の内部にある支柱、立体構造の骨組みです。
一番外側にある皮膚。これは外界と体の境界線にあたる臓器。これが体の内部を固定し、体のフォルムを維持させている型枠。皮膚は体の形を維持させる型枠である、というのが正顔法の皮膚の捉え方です。
体の形状を支えているもの、これが骨格。その骨格に沿って、中身である内臓や筋肉、脂肪が肉づけられて人間の形が出来上がっています。中身の形状を維持しているもの。 これは一般的には筋膜とされています。

筋膜は、コラーゲンとエラスチンでできた繊維状たんぱく質の薄い膜です。この膜は、筋肉だけを包み込んでいる訳ではありません。骨や内臓器官、血管、神経とか、体のさまざまな構成要素を包み込んでいます。しかも、筋肉でいうと筋肉そのものを包んでいる膜、その中の筋線維を包んで束にする膜、さらにその中の筋線維を束ねる膜があり、いくつもの膜で組織を束ねて立体構造ができている訳です。

筋線維の役割は何か?
①筋肉の形状を保つ(スライムみたい広がっちゃう!)
②内臓など、それぞれの場所に正しく位置するよう固定させている
ですから、体の内部を立体的に支えているので第二の骨格だと言われています。 この筋膜より、さらに外側にある皮膚。 体の形状を保つ、筋肉や臓器を正しい位置に固定させるという筋膜が担う働きは、筋膜だけではなく皮膚から始まっていると考えています。
皮膚の中でも表皮。この表皮が、顔の変形や全身のフォルムに影響を与えている。そして、体の立体構造を維持させる働きの大きな部分を担っていると考えている訳です。

皮膚が顔や体の形に影響するなら、皮膚が歪んだらその中身も歪むということです。
その現象は私たちにも確認できます。例えば、目の周りの皮膚の歪みは、まぶたの痩せ、目の下のクマ、眉毛の出っ張り、頬の垂れ下がりにまで及びます。 鼻の皮膚が硬くなっている方の共通点は、後頭部から首にかけて硬く大きくなる、また体軸が崩れて前傾姿勢になる。このような現象は、表面の皮膚の歪みがそのまま形の歪みとして現れる実例です。

それでは、どうして薄くて柔らかい膜の皮膚が 内部構造を歪ませ、形まで変形させるのか?
顔の変形が起こっているとき、表皮や真皮の内部で何が起こっているのか、そこから説明してみます。

先ずは、表皮の内部。 イラストの〇部分が表皮の角層。

筋肉が収縮したときできるシワ。手をグーにして、開くと一時的にシワができますよね。
このシワは、皮膚の座屈、分かりやすくいうと「皮膚のたわみ」です。このシワって、若い時には筋肉を緩めたら一瞬で消えましたよね。でも歳を重ねると、皮膚のたわみが徐々に定着して小ジワや大ジワになってしまう。なら、若い人と年老いた人で何が違うのか。 まあ、細胞の活動自体の弱まりから、さまざまな違いがあるのですが、表皮の角層で違いを言うと若い人では角層自体がたわむ、老化すると角層と表皮層が一体となってたわむ。

(参考文献:J-STAGE 力学的視点から見た肌の老化とシワの関係)

この皮膚の力学から得られた現象を、私の経験値からイメージしてみます。
この説明はあくまでも施術の実感から組み立てた考察です。顔に表情がでるとき、表情筋が動いてそれに合わせて皮膚も伸び縮みします。皮膚はいくつもの層の重なりでできています。
正常な皮膚なら、感情と連動した繊細な顔の動きは、表情筋の動きに連動して皮膚のそれぞれの層がゆらぎながら対応している。それが、先ほどの皮膚力学でお話ししたように、下部組織の動きを角層のたわみで受け止めていたのが、角層と表皮が一体となって受け止めるようになる。

これは古い角層が停滞して厚くなり、そのまま扁平して硬くなることで柔軟性が損なわれ、表皮をともなって動いてしまうということ。
こうなると、顔の微細な動きに対して、角層で揺らいでいたものが、角層と表皮の厚みをもってゆらぐと、柔軟性が損なわれる分、顔の動きにどことなく違和感を感じるようになってしまう。動きに対して、皮膚が抵抗する、ロックをかけているようなものです。その負荷は筋膜にも影響し、癒着やねじれを起こすのではないでしょうか。

今、お話したのは皮膚の表皮部分です。次は、顔の変形が起こるとき、真皮の内部で何が起こっているのか。


真皮は乳頭層、乳頭下層、網状層の3層からできています。ここは繊維細胞でできていて、乳頭には血管の末端があり表皮に栄養を与えています。
網状層は太い膠原繊維束とそれをつなぐ弾力繊維でできていて、柔軟性と強度を持っています。

これからお話しするのは、歴史的な解剖学者・ラウベルとコブッシュの著書から 得られた真皮の特性、それをもとにした私の考察です。
皮膚は、普通にしていてもある程度の緊張状態で下にあるものを圧しています。

その時の真皮の線維束は、菱形の網目状。

関節を動かし皮膚が緊張すると、線維束の配列がほぼ平行に並ぶ。そしてまた動きを戻すと、菱形の静止状態に戻る。私たちの動きに合わせて、皮膚の真皮の線維もこのように動いている訳です。

皮膚を円形に切り出してみる。

皮膚の緊張が均等な場所なら、切り出した皮膚は小さくなり、あとに残った穴は大きくなる。どちらも円形のままで、ということです。緊張が不均等な場所なら、円形に切り取った皮膚とあとにできた穴は楕円形になる。しかも、両方の楕円の長軸がたがいに垂直になる。

この解剖学から得られた知見は、私は皮膚の張力の特性だと解釈しています。皮膚の緊張の度合いによって、皮膚張力のベクトルも変化するということ。


皮膚の緊張が一定なら、張力は放射線状に均等に広がる。緊張が不均等なら左右または上下の張力が強くなる。

これを実際の顔で例えてみます。
顔の皮膚の緊張は常に一定だということはありません。目、鼻、口など動きのある部分、感情の動きに合わせて反応する眉間やこめかみなど、顔では緊張の度合いが部分的に入り混じっています。しかも、皮膚や筋膜上での癒着や歪みがそこに加わる。

解剖学の知見で皮膚片を切り出した状態を癒着や歪みの部分点とすると、さらに皮膚の張力は複雑になってきます。顔の表面で、さまざまなベクトルで動く皮膚の張力。そして、角層の状態が悪いと先ほど述べた真皮を伴った厚みでロックをかけながら反応してしまう。その大きな負荷が、下部組織を伴って顔の形まで変えてしまう。そう、考えています。

顔の変形には、皮膚と骨格に決まって起こる法則があります。
それは、頭蓋骨に皮膚のサイズが合わなくなることです。 相対的に頭蓋骨から皮膚がたるむとういことではありません。 骨とその上にある皮膚には正しい位置関係があります。
例えば、本来、頬骨の上に位置する皮膚がずれて移動してしまう。移動した方向によって皮膚がたるんだり、引っ張られて硬くなったり、その結果、頭蓋骨に皮膚がフィットしていない状態になる訳です。
この皮膚の移動も、先ほど述べた複雑な皮膚張力が関係しています。そして皮膚の下の組織も同様に動いてしまう。
この顔は、骨と皮膚の位置が合わなくなった典型です。

顔の形が変化する現象。 もちろん老化の要因もありますが、私は皮膚の状態、特に表皮の状態に大きなウェートがあると思っています。
初めに述べた力学的視点から皮膚を見た論文は、若年と老年を比較して、筋収縮を角層から角層と表皮で受け止めるようになる老化現象として述べていました。私は、年齢よりも角層の状態次第だと思います。
実際サロンのお客さまで、若くても角層が肥厚し圧縮されたように硬くなっている肌は真皮の乳頭層も扁平して、柔らかいはずの肌が体を締め付ける硬い膜のように感じることがあります。 角層のロックを緩和すると、表情までゆるみます。 皮膚は体の形を維持させる型枠である。
なぜなら、
・体のいちばん外側にある皮膚の表皮が、動きを受け止めながら内部を圧していること。
・皮膚の緊張が張力として形を保持していること
・そして、皮膚の歪みや位置を正すことで形状が戻る現象
これらを踏まえ、「皮膚は体の形を維持させる型枠である」と推論しています。
次回は洗顔のアプローチで表皮がどう変化するのか、 顔の形状がどう戻るのかをお伝えします。

 

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