皮膚の張力

顔の形を維持する張力は、皮膚が担っています。
皮膚は顔の内部構造をつなぎとめ、その位置を固定させています。多くの線維の集合が立体形状を維持して位置を固定させている訳ですが、その構造自体が皮膚の張力を生み、顔全体の形状のバランスも保っています。
「皮膚の張力」で皆さんがイメージされるのは、顔の張り、弾力でしょうか。弾力があって、「ピーン」と張ったお肌の状態。そのときのお肌の張り具合として張力をイメージされるかもしれません。

皮膚張力のベクトルは2つあります。皮膚面に対して垂直に向かう縦のベクトルと面上で働く網目状のベクトル。

皆さんがイメージする「お顔のハリ」は、弾力からくる縦の張力に属したものです。この縦の張力は、真皮のコラーゲンの膠原繊維とそれをつなぎとめるエラスチンの弾性繊維そして骨膜まで伸びる線維束、それらの線維の構造から生まれた物理的な力です。
それが縦の張力として皮膚から下部を圧して皮下組織、筋肉、骨の位置を固定させています。 そして網目状の張力。縦の張力が主に真皮から働くのに対して、皮膚表面の網目状の張力は表皮で起こります。
皮膚表面には皮丘と皮溝があり、多角形の皮野が形成されています。

この伸び縮みしやすい表面の形状に沿って張力が働きます。皮膚張力はすべて同じ力で働いている訳ではなく、部位によって力の度合いが違います。
網目状の張力は、それぞれ異なる張力に対して皮膚全体としてのバランスを担い、体の動きに対しても対応する働きがあると考えています。皮溝の走行方向は、体の部位によって決まっています。
分かりやすく言えば、指紋がそうです。真皮の弾性繊維も部位によって走行方向が決まっています。これを皮膚割線というのですが、手術で切開するとき、この線に沿えば張力に差が生じないので傷が目立たなくなります。


皮膚割線、ブラシュコ線、デルマトームなども張力のベースになっているのですが、ここでは皮膚張力からくる顔の変形の影響についてお伝えしたいので、今回は省略してまたそれについての投稿を上げさせて頂きます。

皮膚張力は、目に見えない力なので視覚化するとこうなります。

この画像は、人体の形状を線で3D化させたイラストです。このラインと皮膚張力は類似しています。目や口など窪み部分にラインが集約され、それぞれの線の幅が狭くなっていく。線の間隔が狭くなり、密になれば張力は強くなります。

このように顔の構造で複雑な凹凸や穴のある部分は、張力が強く絡み合って立体形状を維持している訳です。
そして、その部分は変形を起こしやすいポイントです。この網目状の張力。この部分的な張力は大きなベクトルとして目と口に向かっています。

この大きな張力の流れが顔全体の立体形状のバランスを維持させ、前回の投稿でお話しした「顔の厚み」をコントロールしている訳です。 私はこの張力を「皮膚の目」と呼んでいるのですが、この目が乱れたり緩んだり、向きが変わったりすると立体形状が崩れ変形が起こります。

ではこの張力、皮膚の目が崩れるという現象を詳しく説明してみます。
このスポンジの緑色の部分を皮膚、黄色は下部構造の断面とします。

張力異常がなければ、このスポンジのように立体形状が維持されます。ところが張力が崩れると、正常な張力ではない方向に下部構造全体がスライドして歪まされる。スポンジの上を手で横にスライドさせれば黄色の厚み部分も連動して歪む感じです。

網目状の張力は表皮で強く働くので、真皮、皮下組織、脂肪、表情筋、骨膜まで連動して引っ張られ歪んでしまいます。すると全体の厚みも薄くなります。ここで大切なのは、問題点は皮膚とか表情筋単体にあるわけではないということです。
例えば、皮膚の弾力がないからとか、表情筋が衰えてるからとか、単体の問題ではなくすべてが連動して起こっている訳ですからそれを踏まえて改善させる視点が必要だという事です。そして、網目状の張力は表皮で強く働くので、その柔軟性を維持すること。スキンケアで常に正常な角層の厚みを保ち、硬く固着した表皮が皮膚にロックをかけてしまい張力のスムーズな動きを妨げることを避けることが重要です。

では、具体的に皮膚の目が崩れるとどうなるのか。 先ずは、目に向かう張力からご説明します。
下図の赤のラインが目に向かう皮膚張力の流れです。


上図はそのラインが崩れた場合の張力の位置。 もともとは帽状腱膜と頬中央を目に向かって引き寄せていた張力が、通常の位置からこのように下方にズレてしまう。 目が動くとき、目の輪筋は額や頬の表情筋まで微細に動かします。そのとき、通常なら帽状腱膜と頬中央を目に向かって引き寄せていた張力が下方にズレているので、側頭部から耳よりの頬までの幅を引き寄せることになります。

この張力のバランスの崩れは、垂直に向かう縦の張力の歪みを伴って表情筋の動きにも負荷をかけ、目が動くときの違和感や苦痛、こめかみの日常的な突っ張りとなって感じられます。

張力は面に作用するので、ズレるというイメージは持ちにくいかもしれません。確かに面に働きかけますが、部位によって張力の向き、強さが違うのでそれぞれに担当する部分があります。そこから外れると、張力全体のバランスが崩れ、表情筋や顔の形状にまで影響を与えてしまいます。
例えば、張力が崩れたときのこの画像。

張力を表す網目状のマス目が広がっているのが分かると思います。これは顔の形状を維持する張力が分散して弱まる、緩むことを表しています。すると顔中央に引き寄せる張力が緩むことにより、顔全体の面積が広がり顔の形状を変えてしまうということです。

では、目に向かう張力が崩れた場合の具体的な症状を上げてみます。

・瞼が三角にくぼみ、やせる
・目頭から鼻背のたてジワ
・眉がしらが吊り上がる
・こめかみの痩せ
・上瞼外側から吊り上がるようなシワ
・小鼻が硬くなり下がる
・カラスの足跡
・頬の痩せ、頬の垂れ下がり
・目の下のクマ
・首のシワ
・目頭のくぼみ
・額が四角くなる、横ジワ
・ゴルゴ線
・お鉢が張る

次に口に向かう張力。
この張力は顔面の構造、前頭骨、鼻骨、頬骨、上顎骨、下顎骨などの顔面頭蓋と下顎を顔のセンター上にある口に寄せる張力です。

この張力の崩れは、ほうれい線やフェイスラインに影響します。

では、口に向かう張力が崩れた場合の具体的な症状を上げてみます。

・ほうれい線
・マリオネットライン
・上顎が広がり、下がる
・あごの出っ張り、広がり
・唇のたてジワ
・帯状毛穴の位置が盛り上がる

皮膚の張力、その力はどこからくるのか。 これは皮膚が持つ線維構造、筋繊維走行方向、骨の向き、関節運動、目や口の動きなどによって皮膚の領域に生じる自然張力だと考えています。
張力はこれらのいくつもの要因が総合して現れるベクトルです。ですから表面の張力、この皮膚の目が乱れていると、内部の状態が大体推測できます。ある問題が顔に起こっているとき、表情筋や骨膜の状態を知ろうとすると生きたまま切開することになります。そんことは不可能なのですが、私は手で触れられる皮膚表面の張力の感触から、その張力を生む線維構造や表情筋、骨膜の状態を推測し、改善の有無を証明として理論を積み上げています。

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